人生を2人でもっと面白く! PairStylesのようすけです。
今回はぼくが副代表をやっていた大学のバスケサークルにて、三泊四日の合宿に行った際のエピソードをお話します。
エモたばこの夜
彼女がいたから、ぼくはサークルを続けてきたのだと、そう思う。
言語化できるほどの理由やエピソードがあるわけではなかった。彼女が特別何かをしたわけではないし、ぼくが特別したことも、何もない。
ただ、ぼくらは一年生のときからずっと、最初からサークルにいて、毎回毎回合宿に参加していた。
ぼくもたいがい、調子にのった、やばい人間だった。
サークルの先輩たちは良くも悪くも「可愛がって」くれて、ずっとい続けたのだから、ぼくにとってあの場所は、居心地はよかったのだろう。
先輩や同期、後輩にはたくさんのことを教えてもらったし、受け入れてもらっていた。
お酒の飲み方も、先輩との付き合い方も、大学生らしさは、すべて、あのバスケのサークルにあったのだと思う。
ただ、ぼくはもう、あそこに戻る気にはなれなかった。
受け入れてくれるのかどうかもわからないけれど、あの場所には特有のしんどさがあって、戻りたいとは思わなかった。
きっと、ぼくらは死にたがりなのだ。お酒の飲み過ぎで死ぬ大学生がいまだにいなくならないのは、どこかで、そうなってもいいのだと、思っているせいな気がする。
昔は、つらいことを共有するのは簡単だった。貧しさも、空腹も、死も、きっと今よりずっと、簡単だ。
人は結局、楽しさを共有するのではぬるくて、死んでしまいそうなほどの辛さを共有して初めて、生きてることとか、仲間であることを認識できるんだと思う。
10年来の友だちは、
「楽しいことは、誰とだってシェアできる。しんどいことをシェアできてようやく、本物なんだよ」
と言っていた。
激しい飲み会。合宿の宴会では、酔いつぶれても(布団があるので)何も困らないおかげで、度を超えて盛り上がる。
喧騒は心地よかったけれど、ふと心の中で冷静になるときがあって、周りがしんと静かになる。じぶんだけが置いてけぼりにされたような、そんな気がしてきて、居たたまれなくて外に出たくなった。
そんなとき、彼女と目が合った気がした。
「たばこ、ようすけも吸う?」
ぼくは畳においてあった、先輩のアメスピを一本拝借すると、
「行く」
と言った。
外の喫煙所は、少し寒かった。夜の空気は澄んでいて、ライターのカチッという音が、やけに大きくきこえる。
たばこは嫌いだった。隣りで吸われるのだけでなく、吸い終わったあとにふわっと香るだけで、とてもとても嫌。
知っている人が、吸っていなかったのに吸うようになるのがとても多くて、それをみるたびに、少しだけ苛立ちをおぼえていた。
ぼくは彼女の顔をみないよう努めながら、ゆっくと質問をする。
「たばこ吸ってたっけ」
「なんかね」
あとに言葉は続かなくて、それが相づちだと、ちょっとしてから気づく。
彼女のたばこを吸う姿はやけに様になっていて、きっとしばらく前から吸っていたのだと思った。
「ようすけもたばこ吸うんだね」
「うーん、なんかね」
深く、深く吸って、ゆっくりと吐く。
たばこは不味かった。灰の、乾いた味が口に残って、唾を吐きたくなる。
たばこを吸う彼女に、苛立ちはおぼえなかった。
いつか吸うだろうという気はしていて、ただ、その姿が少しだけ悲しげに見えて、どうにもならない、焦りみたいなのをおぼえる。
ぼくらはゆっくりと、しゃべっていた。サークルのだれが何した、とか、そんな他愛もない話。
「やっぱり、好きだなあ」
愛おしそうに、遠くをみている。このサークルが好きで好きでたまらない、という顔をしていて、ぼくはそれを、みていることしかできない。
このたばこの火が消えたら、ぼくらは戻らなければいけなかった。
特別なことは、一つもない。
合宿の2日目も、3日目も、宴会の最中を抜けだしては、ぼくらはこうして二人、たばこを吸った。
ただやはり、特別なことは、何一つとしてなかった。
関連記事↓
コメントを残す