「今日ひまだったらおやつ食べに行こう」
そう連絡がきて、ぼくらは14時に東京駅で落ち合うこととなった。
彼女は高校時代の同級生で、当時はまったくと言っていいほど親交がなかったにも関わらず、20代の今でも連絡を取り合う数少ない友人だ。
静かなギャグセンス、とでも呼ぶものが彼女にはあって、そのユーモアにぼくはいつも笑わせてもらっている。
じわりと広がる面白さは大人数でいるときよりも2人でいるときに発揮されているようにぼくは感じていて、だから2人で一緒にいるのは好きだし、彼女のSNSも見ていて飽きることはなかった。
美術館と着物が好きで、どこか文化的な雰囲気を漂わせているから、ティータイムにはここしかない、とぼくが目星をつけたのは美術館に併設されたミュージアムカフェバー、Cafe 1894。
ぼくがシャングリ・ラ ホテル 東京の前で待っていると、自転車を漕いで彼女はやってきた。
「最近サイクリングにハマってるのよ」
「へー、今日はどれくらい走ったの?」
「1時間くらい」
それはたしかにハマっているな、とぼくは思いながら、なんとなくいいなあと思った。
気持ちのいい秋晴れで、かっこうのサイクリング日和。
シェアサイクルだというその自転車は指定の場所で乗り捨てができるらしい。
「お腹すいてる?」
「まあまあ」
「ごめん、カフェじゃなくてやっぱりがっつりご飯でもよい?」
ぼくはお腹がすいていて、Cafe1894は八重洲口からは少し距離があった。
ずいぶんと遅いランチを楽しんでから、ぼくらはひとしきり喋り、本屋に寄る。
「私また自転車借りて行けるところまで行こうかな」
「え、なにそれ楽しそう。おれも行っていい?」
「いいよ」
それぞれ自転車を借りて、皇居の方へと向かう。
ちょうど夕暮れどきの陽が、薄く広がる雲を真っ赤に照らしながら、徐々に夜へと近づいていっていた。
ぼくらは太陽を左手にみながら、時折り近づきつつ、ゆっくりと自転車を走らせる。
2人で走ることに不慣れで、何度も後ろを振り返る。
どれくらいのペースが心地いいのか、どの道が心地いいかを考えながら、自分の力以上に前に進む電動自転車が、背中を押してくれてるみたいで、澄んだ空気の中風をきるのはとても気持ちよかった。
夜に追いつくころ、ぼくらは新宿にたどり着く。
「じゃあ、またね」
「うん、また」
ぼくらは別れて、別々の電車に乗った。
2人で一緒に吸った夜の空気と、頬をなでた風の余韻がいまだに残っていて、当分消えそうになかった。