LINEが続かないなら:夜寝る前に音の手紙をおくる

  

LINEのアプリで、チャット画面を開く。

文字を一度打ってから、青色の送信ボタンを押そうとして。

言葉をぜんぶ消してみる。

すると送信ボタンの代わりに、マイクみたいなマークが浮かんで、それを押すと白地に薄いグレーの円が現われて、真ん中にはやっぱりマイクみたいなマークがあった。

押してみると、グレーは赤色に変わって、指を離すと消える。

1秒間、押してみる。

ピロン、と画面が動いて、送信済みとなった、1秒のボイスメッセージが表示された。

とりなおすことも、送信する前に確認することもできない。

なんだこれ、緊張する……。

ボイスメッセージが送られてきたのは初めてだった。

だから、最初はよくわからなかった。

2分以上の、短くはないもの。

耳元にiPhoneのスピーカー部分を押し当てて、1分30秒まできいたところで間違えて画面をロックしてしまう。

もう一度続きから再生しようとするも、最初から。

音は別のアプリに保存することも、ききたい箇所だけをきくこともできはしない。

なんて不便なんだ。

ビデオ通話すら簡単にできる現代で、こんな融通のきかないコミュニケーションツールがなんで存在するのだろうか。

そう、思ってた。

緊張しながら、親指で長押ししたまま、画面に向かって言葉を発する。

言いたいこと、伝えたい言葉、前もって準備していたはずなのに、不自然なくらい間があいて、もうグダグダ。

なんだこれ。

うける。

文章にするのとはまた、全然違うもの。

言葉をつなぎ合わせて、削って、足して、また全体をみて、手直しする。

そんなことをできるのが、文章なんだと思う。

しかも機械で打ち込む言葉っていうのは、付け足すのも、最初の一行をまるまる最後に移動させることも簡単だ。

この不便さ、何に似ているのだろうかと思ったら。

そうか。

手紙だ。

まあ、手紙よりよっぽど、不便な気もするけれど。

音の手紙。

嘘のつけない、まっすぐ届いてしまうもの。

文字化してしまうと、理解した気になってしまう。

言葉を尽くしすぎてしまう。

噛みしめることなく、上澄みだけをすくって、わかった気になって、言葉をこねくり回してしまう。

音にはそれがない。

目をつぶって、相手の言葉をダイレクトに心にしまう。

何度もきいて、じぶんの心を確認して、伝えたいことを口にしてみる。

ベッドの上で、横になりながら。

頭の中でどんな言葉を使おうかと考えながら、でもきっと組み立てた通りにはいかないのだろうなあと思いながら。

画面を指で押して、目をつぶった。