あけまして、何もの

「いたっ、目いたっ」

落ち葉を巻き上げて風がぼくらを横切る。

車内は禁煙のため、相棒は外に出てタバコを吸っていた。

 

「まだちゃんとお参りしてねえなあ」

東京大神宮から少し歩いた先で、人を待つ。

「また一年が終わったね」

 

何のために生きてるのか。

 

「ばかやろう、始まったんだよ」

 

ぼくらはなぜ、停滞をしているのか。

 

「たしかに」

彼らがタバコを吸う理由と同じように、ぼくにはわからない。

 

「これからさ、お前何したい?」

「イギリスにいきたい、そのために休学したんだし。このご時世で結局いけなかったけどね」

「まあそうだよな。……イギリスいって、そのあとは何すんの?」

「わかんないよ。いってみないと」

「まちがいない」

 

こんなに空は開放的で、ぼくらは自由なのに。

たまに感じる、どうしようもないほどの閉塞感は、なぜなのだろう。

何ものにもなれない苦しみ。

ここじゃないどこかに、強い憧れを抱いてしまう。

 

「ばかだよなぁ」

「え?」

「みんなの特別になる必要なんてないのに」

「お? うん」

「誰か1人の特別であればいいのに、でもさ……、誰の特別になればいいかわからないから、結局、人間はみんな苦しみ続けるんだよ」

「たしかに」

「思ってる?」

「いや、よくわかんない」

「なんやねん」

軽い笑い声が響いた。

ポップコーンみたいに次々と飛び出る言葉に、特に意味はない。

ぼくらの生き方はいつだってテキトーで、現代的だ。

 

あと何回、こうしてだらだらと過ごせるだろうか。

何ものにもなりたくないぼくらの、ささやかな逃亡劇。

 

「お、いた。たぶんあの人だ」

「よろしく頼んだ」

暗がりに立つ、グレーのマフラーをした女性に相棒が近づくと、彼女はぼくらに気づいたようで、小さく会釈をした。

「お久しぶりです、そしたらこっち乗ってください」

「了解ですー」

 

車に乗り込んで、エンジンをかける。

時は夕暮れを過ぎ、外は夜のとばりがおりていた。

「そしたら、よろしくお願いします〜」

カチッカチッと鳴っていたハザードランプの音が消え、車はゆっくりと走りだす。

 

 

 

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