人生を2人でもっと面白く! PairStylesのようすけです。
以前、仕事の関係で映画の試写会に行くことがあって、その際の体験談をエモい感じに書きました。
関連会社との引き継ぎの関係で、ラインでやりとりしたことはあるけれど対面で会ったことはない5つくらい年上の女性の方と、会ったときのお話です。
初対面の女性と2回映画をみる
ビルの前で待ち合わせをする。
お互いの顔はわからなかった。
ラインは知っていたけれど、相手は顔写真ではなかったから、ぼくは少しだけ不安だった。
待ち合わせ場所を確認して、時間を確認して。
映画は13時から始まる。
12時50分の集合時間になっても、彼女は見当たらなかった。
1分、1分と刻むたびに、不安が増していく。
道行く人を見ながら、ぼくは何をしているのだろう、と思った。
どこにいるのかも、わからなくなってしまいそうになる。
「ようすけさんですか?」
マスクをした20代くらいの女性に声をかけられた。
ぼくが「はい」と言うと、彼女は足早に建物の中へと向かう。
どうにか上映には間に合いそうだ。
彼女の背中を追って自動ドアをくぐりながら、茶色のギンガムチェックのコート、かぶってる、と思った。
映画はとても面白かった。
中学生の女の子が、じぶんをすくう物語。
素直になれない気持ち。じぶんを押し隠して、新しいじぶんを上書きして。
ぼくたちは建物をでる。
たぶん、家で一人でみていたら、泣いたかもしれなかった。
けれどさすがに泣くのははばかられ、こらえていた。
隣にいる彼女が鼻をすする音がきこえる。
チラッとみると、心なしか目が赤い。
ぼくはみなかったふりをして、半歩前を歩いた。
何を話そうかと思って、映画館で一瞬みえた、携帯の待ち受け画面を思い出す。
「その待ち受け、グリッドマンですか?」
彼女の目が、パッと明るくなった気がした。
「そうです! りっかちゃん、さいとう先生の描いたやつなんですよ!」
「いいですね」
ぼくの声は、たぶん平坦だ。
落ち着かなければ。
アニメ好きの人に会うことってあまりないから、ついついテンションが上がってしまう。
上がりすぎて、心の中では「アクセスフラッシュ!」と叫んでいた。
「じゃあ、また」
ぼくらはわかれる。次の予定は決まっていて、だからさよならは言わなかった。
四日後、また別の場所で、ぼくらは待ち合わせる。
今回は彼女が先に着いていた。
ぴん、とまっすぐ立っているのだけれど、頭は大きく下に傾いていて、長い髪の毛が目元を隠すものだから、いくら近づいてもこちらに気づく気配はない。
人違いだったら恥ずかしいなあと思いながら、名前を呼ぶ。
「あ、こんにちは」
「すいません、先トイレ行ってもいいですか?」
ワインカラーのハイゲージニットに、黒のチェスターコート。
ぼくが滅多に着ない組み合わせなのに、今日も服がかぶっている。
音楽の映画。ついついリズムにのってしまって、中指と親指をタップさせる。
コメディなのに熱い要素もあって、バカっぽいのについ真剣に魅入ってしまった。
ぼくらは帰路につく。
改札の前で、魚の形をした財布を取りだすのをみて、
「猫ですか?」
とぼくはきいた。
彼女は首を横にふる。
「いや、マクロスのシェリルが持っていた携帯なんですよ」
「え、マクロスFの? そんなの持ってましたっけ、シェリル」
ピッと音がして、ぼくらは改札を抜ける。
「劇場版のやつです」
「ランカが持ってたカエルのやつみたいな感じですか」
ぼくの右手を開いて、閉じてを繰り返すジェスチャーをみて、彼女は二回うなずいた。
「そうそう、それ」
「へー、劇場版って面白いですか?」
「泣けます」
「家になぜか買ったままみてない劇場版のブルーレイあるんで、帰ったらみてみます」
心地のいい偶然が続いていた。
そもそもぼくと彼女が出会ったのも、それでしかなかった。
投げたボールが、地面に落ちてもすぐには止まらないように、コロコロと、心地のいい偶然の延長線上に、ぼくらはいたのだと思う。
電車は進んでいて、すぐに降りる駅となった。
「じゃあ」
さよならは言わなかった。
そのくせ、もう会うことはないのだろうなあと思った。
偶然は、何回も続かない。
ただその心地よさを胸にしまって、ぼくは家に帰ったら劇場版マクロスFをみようと心に決めながら、ゆっくりと歩いた。
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