友達だと思ってた男に告白されて嫌な気持ちになる私の物語

男ってサイテーだ

 

 

「おれ、あなたのこと好きだ。だから、付き合ってほしい」

またか、と思った。

少し恥ずかしそうに、少し自信のある目で、少しの雰囲気に酔いしれた彼を見て、私は下唇をぎゅっと噛んだ。

嫌な予感はしていた。

だから必死に予防線を張って、絶対にそのラインを超えてこないように何度も言外に主張したのに。

言葉も汲み取ってくれず、空気も読まず、こっちの気持ちなんて何も考えないで、それなのになんでこいつは私のことを”好き”だと言うのだろう。

あー。

冷める。

冷たい。

嫌になる。

すべてが。

なんでこうなったんだっけ。

私何か間違ってたっけ。

友達でいてほしかっただけなのになぁ。

 

 

 

彼と出会ったのは、アルバイト先……、とは厳密には違った。

私の働いていた飲食のお店は全国展開しているチェーン店で、年に一度、アルバイトの人たちのための総会が毎年開かれていて、何百人といるアルバイトスタッフが集まるのだった。

あくびがとまらなくなるような社長の長い話や、成績優秀者の表彰など、面倒なことばかりだったけれど、唯一の救いはそんな時間でも時給が発生して、お金がもらえること。

ただ、あまりのつまらさと時間の進まなさにイライラしてきて、私は早くも総会に出席したことを後悔し始めていた。

働くことは楽しいことです!

と生き生きと話す社長の横で、社員たちは下を向いている。

あー、きっと社長っていうのはじぶんのエゴを信じ切って、押し通すだけの視野の狭さを持っている人だけがなれる職業なんだろうなぁ、と思った。

 

それではじゃんけん大会を行います〜

という司会の人の言葉で、ふと我にかえる。

いかにも下の人たちの考えを理解できていない上層部が考えそうなことだ。

もう面倒だし帰ろうかなぁ、いやでも帰るのも色々めんどくさそうだなぁ、とりあえず早く負けて早く終わってもらおう。

それではいきますよー! はい、みなさん社長に勝ってくださいね、最初はぐー、じゃんけん……

 

気づいたら、残り10人に入っていた。

まじか。

何百人もいたのに、なんでこんな勝ち残ってしまったんだ。

でも賞品のスイッチも商品券もふつうにほしい。

これはもしやいけるのでは……?

と思ったその一瞬先には、

負けていた。

 

「うわぁ、負けたあああ!」

と叫ぶ同い年くらいの男の子の横で小さく笑う、もう一人の男の子と一瞬、目が合う。

 

これで残り7人です! 社長、あと少しなのでがんばってくださいね笑

 

司会の人の言葉は遠くにきこえて、私は舞台から離れていく。

余興のじゃんけん大会に、余興の立食パーティ。

じゃんけんが終わっても総会が終わらないことに気がついて、改めてがっくりとしてしまうじぶんがいた。

 

「お疲れさまです。お互い負けちゃいましたねー」

ニコニコと話しかけてきたのは、うるさい奴の隣にいた男の子。

「はい、残念です……」

壁際に寄りかかって、私は遺憾なくコミュ障を発揮させていた。

「おれ、あっちの方の店舗なんですよね、えっと……」

じゃんけんで負けたタイミングが一緒だった。

それだけ。

でもなぜだか意気投合して、私たちはその日、連絡先を交換した。

お互い大学生で、年は近かった。

好きな漫画が少し一緒で、些細な許せないことが被った。

社長の偽善っぷりにも、自身の怠惰っぷりにも毒を吐いて、なんだか”同じを感じられた気がする。

「また会えるかもね」

意味深なその言葉を言ったのは、彼だったか私だったか。

 

 

それから一週間後、私たちは出かけることになった。

新宿でタイ料理屋さんにいって、

「私ビール苦手なんだよね」

「タイのビールは水みたいだからめっちゃ飲みやすいんだよ。おれタイいったからわかる」

「うそつけ笑 それ水混ぜられただけじゃないの?」

「ほんとだって! ちょっと頼んでみようよ。絶対にほんとだから!」

と、彼は何でもすぐ必死になる人だった。

身振り手振りが大きくて、最初に会ったときとは印象が大きく変わっていた。

薄いビールに口をつけて、私は彼の食べかけのカオマンガイをみる。

「なんかさ、あのじゃんけん大会のときはそんなに必死じゃなかったの? ほら、負けてすっごい悔しがってた人もいたじゃん」

「あー、リュウのこと? あいつは悔しがりすぎ」

そう言って彼は笑った。

「おれのこと赤ちゃんだとおもってる? 違うからね、そしてビールはやっぱり薄くて飲みやすかったよね?」

「しつこいわ笑」

二人してよく笑った夜だった。

いい友達になれるのだとささやかな確信があって、私はどこか嬉しかった。

同性の友達はもちろんいるけれど、異性の友達がいたっていい。

私は男女の友情を信じていたし、彼とのテンポや空気は居心地がいいし、わかってくれている感じがした。

 

 

その後も私たちは何度か出かけた。

一緒に映画をみて、心一つ動かなかった私の横で号泣する彼をみていた。

お会計でぜんぶ払おうとする彼を止めて、きっちり割り勘をした。

好きな人のタイプをきかれて、「お前ではない」って答えた。

歩くときに手と手が触れて、私は半歩離れた。

 

そうして今、夜の公園のベンチで座りながら、彼がこっちを向いて、何か言っている。

私のことが好き?

私が今どんな感情で、何を想っているのかも理解してくれていないのに?

虚しかった。

また、違う。

「おれさ、あのじゃんけん大会結構必死だったんだよ?」

「……どうして?」

彼は鼻のてっぺんを人差し指で触って、照れ臭そうにこっちをみた。

「総会が始まってからずっとあなたが気になってた。だから、どうにかして近づこうとがんばって、それで同じタイミングで負けたから、すっげえうれしかったんだ。きみ、ずっとつまらなさそうな顔してたから」

「……そっか」

いや、逆にあの総会で楽しそうにしてたやついる?

みんながみんな、つまらなさそうに下向いていたでしょ。

彼の子供っぽいところも、どこか何かに酔っているようにみえるところも、私をみるその目つきも。

すべてが嫌だった。

私は友達でいたかっただけなのに。

どうしていつもこうなんだろう。

 

男って、サイテーだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です