かなは美しく在りたい物語

かなはガッキーとか、田中みな実とか、美しい人が好きだった。

2個上で、今はもう大学生になってしまったダンス部のかおり先輩がインスタに載せる、美しいカフェやレストランの写真が好きだった。

そして、瀬戸内寂聴さんの本に綴られる美しい言葉が大好きだった。

かなは美しくなりたい。

それは顔や仕草、言葉遣いはもちろん、生き方そのものでもある。

だからかなは、美容系youtuberの動画を日々チェックすることに余念がない。

甘いものは好きだけれど、無計画に食べたりなんてしない。

嫌いな人にだって、優しく丁寧に接している。

かなは可愛くていいよね、って言いながら、不摂生で、脂っこいものばかり食べてて、楽だからという理由でスカートの下にジャージをはいているような子たちが嫌いで嫌いで嫌いで……っ!

でも、丁寧に接する。

本当はこんな感情を抱くのも嫌で、自分のちっぽけさに溺れてしまいそうになる夜が、朝が、昼でさえあるけれど、かなは”負けない”と強く心に誓い続ける。

毎日欠かすことのない日記に、かなはなるべく正しく、自分の感情を書き綴るようにしていた。

なんでイラッとしたのか。

なんで悲しかったのか。

なんで悔しかったのか。

なんで泣いたのか。

もちろん楽しかったときの感情も書き綴る。

日記の中だけは、かなは美しく在ろうとはしなかった。

この日記は、かなの秘密そのもの。

薄暗く、貪欲な美しさへの執念が形になったものなのだと、かなは思っている。

 

かなの心は美しくない。

レジでおたおたしている店員さんにイラッとするし、遅延して学校に間に合わない電車に取り残されながら、朝ご飯を食べるよう言ってきたお母さんを思い出してムカついてしまうし、筋トレをサボってしまうことがある。

かなは自分を愛せない。

もっと美しく在りたい。

ただ、美しく在るためには、かなの性質はあまりにも美しさからかけ離れている。

そう、かなは思っていた。

だからといって諦めるわけにはいかなかった。

かなは美しく在りたい。

誰でもなく、自分のために。

美しさの刃の、その切っ先を自分に向けて、今日もかなは、美しく生きてみる。

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