人に訊かれて困る質問の一つに、
「あなたの好きな人のタイプは?」
というものがある。
ただ、ぼくはよくその質問をする。
誰一人として、優しくない人や、素直じゃない人、面白くない人を好きだと言うことはない。
つまらない質問だ。
そんなの一番、わかってる。
ぼくが好きな人について訊かれたときは、笑うのが素敵に上手な人、と答えているのだけれど、あまりぴんと来てもらうことはない。
つまらない回答だ。
うん、ぼくもそう思う。
そんな折、とても素敵な答えを持っている人と出会った。
年末間際の朝4時、仕事を終えたぼくらは始発を待ちながら初めましての自己紹介を行う。
シラフでこんな時間まで起きていたことなんて久しぶりだと思いながら、テンポ良く会話に応じてくれる彼女を見て、笑うのが素敵に上手な人だなと思ったのを覚えている。
快い人だった。
その心良さが忘れられず、食事に誘ったところ、きてくれることになった。
都会とはほど遠い場所にある、キタナシュランに掲載されていそうな一軒の居酒屋。
女性と二人でこんなところに入ることなんてないから、緊張してしまう。
お客さんはおっちゃんばかりで、しかも一人の人が多い。
彼女の居心地が悪くなっていないから横目で確認を試みるけれど、きっと笑うのが素敵に上手だからか、小汚い場所にも関わらず嫌そうな顔ひとつしていなかった。
「好きな人のタイプはなんですか?」
「うーん」
彼女は少しの間考え込んでいたようにも見えたし、すぐに答えたようにも見えた。
メガサワーのジョッキが、その手には不釣り合いなほど大きい。
「秋、みたいな人かなぁ」
「秋?」
ぼくは聞き返す。
「うん。暑くもなくて寒くもない、そんな人」
特別な言葉ではないけれど、少し特別な言葉の遣い方だと思った。
好きな人について、芸能人などの人に例える場合や、ママレードボーイみたいに食べ物に例えることはあっても、季節が開口一番に出てくる人には会ったことがなかった。
わかりやすくて、感傷的になる。
説明が必要な食べ物と違って、季節はなんとなくイメージがしやすい。
パートナーと一緒に何をして過ごしたいのかまで想像できてしまうような。
そんな、素直な言葉だと思った。
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