雨なんて梅雨(つゆ)しらず

お店を出たら雨がザアザア降りで、がっかりした自分に一番、がっかりしたのだった。

 

雨はあまり好きではない。

でも雨が好きじゃない自分のことはもっと好きじゃない。

映画、言の葉の庭を観たとき、雨の捉え方が変わった気がして、苦手なものにどきどきして、心躍るようになることがあるのかと感動して、すごく嬉しかった。

けれど。

結局、雨は苦手なままである。

新宿御苑で待ち合わせなどしていないから。

雨の日に持ち合わせた待ち合わせ場所なんぞ無くて、ただひたすらに服が濡れるとか、風邪ひくとか、傘を差さなければいけないとか、がっかりすることが多かった。

雨に対して期待をやめて、もう好きであろうとすることも諦めたこの頃だったのだけれど、つい最近、ガリガリくんの当たり棒を見つけたときくらいの喜びを感じたのだった。

雨に対して。

 

ドラッグストアを出たぼくは、さっきまで降ってなかったはずの雨を見て、がっかりしていた。

ゆっくりと、ゆったりと、寒いながらも、散歩をしたい気分だった。

街を歩きながら、ぷらぷらとする。

ぼくの休日の楽しみは、この空模様のせいで台無しになってしまったと思った。

午後からは雨の天気予報。

だからこそ、朝から出かけていたのだけれど、どうやら遅かったようだ。

しばらく逡巡した後、致し方ないと思い、雨に濡れながらの散歩も悪くはないか、とキモいことを半ばヤケ気味に考えてたところ、小学生くらいの娘と母と思しき二人組が同じドラッグストアから出てきた。

 

特に気にも留めていたなかったけれど、娘であろう女の子の方が、ザアザアと降り出した雨を見ながら飛び跳ねた。

母はゆったりとした口調で、

「さっきまで降ってなかったのに、急に雨降ってきたね〜」

と言った。

少女はもう一度大きく飛び跳ねると、すぅーっと息を吸って。

「やったーー!! 雨だ雨だあああ!」

とでかい声で叫んだ。

それはまるで、大好物の唐揚げを目の前にしたガキンチョのような。

 

お母さんは娘のテンションの上昇に引っ張られるように、少し大きめの声で、

「いや、よくないし。濡れるから」

と言った。

女の子は構わず、「やったぁ。やったぁ」と飛び跳ねてる。

アホである。

結局こういうやつが雨の日にはしゃいでずぶ濡れになって翌日風邪ひいて寝込むのだろうなぁとか、性格の悪いことを考えながら、思わずぼくはニヤニヤと笑ってしまった。

マスクあってよかった。

キモがられずに済んだことに安堵しながら、でももしかしたらマスクの下で笑っていたのもバレているのかもしれないと不安になってその場をそそくさと離れながら、ぼくは傘も差さず(持ってなかった)、ぷらぷらと街中を歩いた。

もう、雨は嫌ではなかった。

頭の中で、

「やったぁ、やったぁ」

とはしゃぐ声が反芻されて、少しだけ嬉しくなった。

雨を見てこれだけ喜べることが羨ましくて、そうすると途端に雨に価値があるように感じて、むしろ誰も知らない雨の良さを、この少女だけが知っていて、彼女がぼくにも特別に教えてくれたように感じられた。

考えすぎである。

でも不思議なくらい真っ直ぐと、そう感じてしまったのだから仕方がない。

友達と一緒にガリガリくんを買って、自分だけが当たりだった。

そんな優越感にも似た喜びは、雨が降りしきる間中続いた。

 

 

雨に濡れて散歩を続けたぼくが翌日、風邪をひいたのは言うまでもない。

雨は嫌いである。

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