「さびしい?」
「ううん」
「……そっか」
かなはゆうたくんの隣に、そっと座った。
彼のその小さな肩は、震えているようにも、いないようにも見える。
「つらい?」
かなは、小さな子どもに対してどう接すればいいかわからなかった。
うそだ。
きっと同い年の高校生でも、大人でも、こんなときどうしてあげればいいのかは、わからない。
大人になったら、もっとうまくできるのだろうか。
「つらくないよ」
ゆうたくんはかなとは目を合わせず、空を見上げてにぃっと歯を見せて笑う。
冬凪の海のような、冷たくて、穏やかすぎる姿に、かなは自分でもどう表現していいかわからない感情に襲われる。
襲われる、というのは言葉として間違っていなかった。
高波みたいに大きく覆い被さってきて、かなは身動きがとれなくなる。
これ以上、かける言葉が見つからない。
きっとかなだって、自分が同じ立場だったら同情してほしいとは思わない。
「そっか」
「かなちゃんは……、」
ゆうたくんの言葉は、それ以上続かなかった。
曇りの日の夕方は、ただ昏くなるだけ。
真っ赤に燃える夕日も、黄金色に光る雲もない。
夜に向けて、徐々にくらくなっていくだけだ。
かなの肩と、ゆうたくんの頭が触れる。
お互い前を向きながら、地べたに座って草っ原を見ていた。
「私の好きな曲にね。二人ぼっちに慣れようか、って歌詞があるの」
「二人ぼっち……?」
「そー。一人じゃなくて、二人で、ぼっちでいよう、その寂しさを抱えよう、ってことだと思うんだけど」
「……」
「二人でいられない人は、どうすればいいんだろーね、って思って。二人ぼっちの、そのもう一人を見つけられない人って、そのぼっち、結局は一人で持っているしかないのかなーって」
ゆうたくんが何かを言うよりも先に言い切ってしまおうと、かなは静かに続ける。
「だから私は、独りよがりに慣れようか、って言うことにしてる。別れるたびに、分かり合えないたびに、寂しくてつらくなってしまわないように、独りよがりだったのかな、って沈んでしまわないように。独りよがりに慣れようか、って」
「ひとりよがりに、」
「そう、独りよがりに」
「じぶんかって、ってこと?」
今日出会って初めて、ゆうたくんがこっちを向いた。
目元は未だに赤い。
涙の跡も、頬に残っている。
やはり、かなの見間違いではなかったようだ。
何があったかは知らない。
ただ、かなはあえて訊くつもりはなかった。
聞くのが怖いというのもあったけれど、人の涙に土足で入ってはいけないと、そう思ったからで、さらに言えば、泣き終えた男の子に野次馬丸出しで根掘り葉掘り伺うのは美しくないからだ。
感情に寄り添えばいい。
肩と肩をくっつけて、お互いの体温を分け合うような、そんな小さなもので。
「そうだよ、自分勝手。自分のことを一番に考えてしまうことを、許してあげるの」
「じぶんかってはダメって、お母さんが言ってた」
「いつもはね。でも、本当にしんどいときとか、つらいときは、独りよがりな自分を許してあげなきゃ。だって誰もゆうたくん以上にゆうたくんのことを考えてはくれないから」
「かなちゃんは、独りよがりになれたの?」
「……うーん。やっぱり難しくて、まだ慣れないかな」
「かなちゃんができないなら、ぼくも無理だよ」
「そっか」
「……うん」
「じゃあ私なれた」
「え?」
驚いた顔でゆうたくんはこっちを見る。
子どもって感情表現がわかりやすくていいな、とか思いながら。
かなは何が可笑しいのかもわからず、ふふっと笑った。
「じゃあぼくもがんばる。じぶんかって。だから一つ、お願いしてもいい?」
ゆうたくんは立ち上がって、かなの目線よりも少し高くなる。
「いいよ、なんでも」
「アッチョンブリケ、やって!」
両手のひらで両頬を挟み込んで、タコみたいな顔をしてみせるゆうたくん。
「…………いやだ」
「えー、かなちゃん、なんで?」
「美しくないから」
「でもなんでもやるって!」
「私も独りよがりに慣れたから。やりたくないことはやらないの」
「えー、ずるー」
かなは立ち上がると、ゆうたくんに手を振って、
「じゃあ、あっちょんぶりけ〜」
と言う。
「ちがう、ちがうー!」
と唇を尖らせるゆうたくんを置いて、歩き出す。
独りよがりに慣れようか。
ゆうたくんに、独りよがりをみせられただろうか。
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