「賭け、したくね?」
五反田の駅から少し歩いたところにある喫煙所で、ぼく以外の2人はタバコをふかしていた。
夜の暗がりにアイコスの無機質な白いライトが光っている。
「カラ館で麻雀でもする?」
「ありよりのあり」
地元が一緒の彼らと会うのは1年ぶりよりももっと遠かったけれど、やっぱり変わらないなあと思った。
ぼくらはずっと子どものままで、一つ一つの勝ち負けに一喜一憂している。
それが男のサガなんだと、心の中で思う。
「ドライブもしたいな」
「あー、あり」
“あり”すぎて困る。どうしよう。
早朝のお台場海浜公園でずぶ濡れになったこと、その後わざわざ横浜まで運転して銭湯に行ったことを思い出して、ぼくは1人感傷に浸る。
麻雀のルールを覚えられなくて、彼らの誘いを断ることが多くなってから、会う頻度は目に見えて減っていった。
会う理由も会わない理由も、本当はたいしてない。
地元が一緒ってだけで、共通点はそれくらいだ。
だらだらと時間を過ごした仲。
それが心地いいんだって気づいたのは、最近のことで、理由がなくたって会えるという小さな幸福を噛みしめながら、ぼくは無意識のうちにあいづちをうっていた。
「じゃあ、そうしよう」
「え?」
あれ、なんだっけ。
「カジノバー」
「おー、あり」
調べると、テキサスホールデムポーカーのできるカジノバーが近くにあるらしかった。
お酒を楽しみながら、手持ちのチップで勝負。
お店にはディーラーがいて、カードを配り、ゲームを説明してくれるらしい。
「勝ったらチップどうなるのかな」
「さすがにお金には換えられないでしょ」
「まあ雰囲気も良さそうだし、とりあえずいってみよう」
異論はなかった。
ぼくらはいつだって、”賭け”をやめられない。
エレベーターをあがると、扉はなく、すぐお店の中だった。
壁に所狭しと並んだお酒のボトルが真っ先に目に入る。左に少し歩くと、8人が座れそうなカジノテーブルが3つある。
一番奥のテーブルには30代から50代くらいまでの男性が5,6人座っており、黒いワイシャツを着たディーラーと思われる人が手前の席でカードを配っていた。
ぼくらに気づいて、みんなの手がとまる。
「トーナメントですか?」
どこからか現れた2人目のディーラーの人は、20代後半といったところだろうか。
「すみません、初めてで、何もわからないんですが…」
トーナメントってなんだ。
「なるほど、一応今トーナメントの参加権をかけたゲーム中でして」
ディーラーはにこやかな顔で言う。
ぼくらは顔を見合わせて、首を横にふった。
「トーナメントしかやってないんですか?」
「ふつうに遊んでいただくこともできますよ」
「じゃあそれで」
ぼくらは席につくと、まずドリンクを頼んだ。
その後、金額の説明を受けて、2000円で100ドル分のチップを買う。
「最初ということなので、まずは練習で一回やりましょう」
ディーラーの説明を受けながら、コール、ベット、フォールドなどの単語を習いつつ、流れを覚えていく。
「負けた人は、場代ね」
「おけ」
いざ本番。
時にカマをかけ、時に勝負をしかけ、ぼくは順当に自分のチップを増やしていった。
賭け金を増やしていきながら、勝負をしていく。
負けが続いて少しチップは減っていたけれど、まだ大丈夫。
手札はフルハウス。
仕掛けるしかない。
オールインで、すべてを賭ける。
よし、のってきた。
オープン。
ディーラーの声。
「こちらフルハウス…、そしてこちらもフルハウス。7のスリーカードの方が強いので、こちらが勝利」
えっ、どっち。
こうしてぼくはこの夜、破産をしたのだった。
カジノバーに酔いしれる。
そんな深い夜の話。
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