愛されることに無関心な物語

表参道のカフェ。

意外と若い子が多いなぁとか思いながら、ダージリンのホットティーをいただく。

白いポットは、まるで美女と野獣に出てくるあれみたいで、可愛い。

「わたしは可愛い女の子と一緒にいられればそれで満足だなー」

おおよそ華の女子高生らしからぬその物言いに、私は少しだけたじろいだ。

「可愛い女の子ねー」

一回り以上離れた可愛い姪っ子は、私と一緒にいる時は”キャラ”とやらがブレるらしく、三つ編みにもしなければ、丸眼鏡だってかけていない。

「ゆんちゃんはさー、なんで彼氏いないの? 土井さんは?」

「ちょっと、ぐいぐい聞くじゃん」

「だってー」

「興味ないんじゃないの? 恋愛」

「わたしは興味ないけど、わたし以外のは興味あるんだよ。土井さんいい感じなんじゃないの?」

自家製トロピカルジュースはカラフルで、若いこの子によく似合う。

「最近の子はデリカシーないわねぇ」

「それやめた方がいいよ、うちのお母さんみたい」

「別にいいでしょ、薫子さん素敵じゃない」

「そういうことじゃなくてー。それで、土井さんはなんでダメなの?」

「駄目って言ってないよ。ただ、そういう関係じゃないの。会社の同僚だしね」

「でもいい感じじゃんー。絶対土井さんもゆんちゃんのこと好きだよ」

「も、って何。私別に好きじゃないし」

「うそだぁ。ゆんちゃんはさ、恋愛したいって思わないの?」

どぼぉん、と重たい身体が海の底に沈んでいくような感覚に襲われる。

見上げるとキラキラと反射して揺らぐ太陽光が、ネモフィラみたいな色をしていて、触りたくなる。

けどふれられない。

夢を見てて、起きて、ちょっとの幸福に包まれた朝、その実体を手繰り寄せようと手を伸ばすけど、何もかもを、__余韻すら、忘れてしまった日の午前みたいな気持ち。

「多分、愛することが怖くなったんだと思う」

「なんで?」

「……しおりはさ、二人だけが共犯者で、お互いがお互いを許してて、ずぅっと一緒にいられるなぁって予感を覚える、そんなぬるま湯みたいな関係って言えばいいのかな、……そういう感じを知ってる?」

「わからない」

彼女はまっすぐとした目をしている。

この子には、芯がある。

「恋愛には色んな形があるんだろうけれど、二人とも同じ体温じゃないといけないんだと思うんだよね」

「……どういうこと?」

「愛されたいなら、愛さないといけないってこと。若い頃は、男の子が寄ってくるのを、愛されてるだなんて錯覚してたけれど、実際はそんな都合のいいことではなかったんだと思う。自分が同じ分だけ覚悟を決めて、愛してあげないと、何も残らない。でも、愛するって、すごぉく傷つくことだから。だから、その一歩はとても重くて、砂に足を絡め取られるみたいに、どんどん沈んでいってしまうの。年齢を重ねれば重ねるほど、ね」

「ゆんちゃんは愛したくないけど、愛されたいってこと?」

「そうなのかも。でもそうじゃないかも」

「どっち」

彼女はふふっ、と笑った。

私も負けじと、ふっふっふ、と笑う。

「この世にはさ、愛に無関心な人たちがいるんだよ。誰のことも愛したいって思わないから、何も見えていない人。しおりは、私の誕生日、いつも一生懸命考えて何かしてくれるじゃん? こんな年の離れた叔母なのに、でも、そうしてくれる。きっとしおりは他の人たちのことも一生懸命に見てて、きちんと愛していて、だからこそ、愛にとても関心があるんだと思う。愛に無関心な人はびっくりするほど多いから、それは立派な才能だよ」

「あれ、何の話だっけ。なんか恥ずかしいな、わたし褒められてる?」

「きっと、しおりはまだ同じ強さで愛に関心のある人に出会えていないだけだと思うよ。可愛い女の子と一緒にいられれば満足って言ってたけど、そう考えるのは早すぎる気もする。別にそれでいいならいいんだけどね」

「ゆんちゃんはどうなの? そんな人に会えたの?」

「それは秘密ー」

「ずるー」

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