吉田くんとゆきこさんはゆっくり歩く
「ゆきこさん、理由をつけてよ、僕が歩くの遅い理由」 「え、何それ。お腹が痛いから?」 「お、いいねそれ」 「いいの、それ」 「たしかにお腹が痛い気がしてきた」 「だめじゃんそれ! うーん、そしたら、地面の感触を確かめて歩...
「ゆきこさん、理由をつけてよ、僕が歩くの遅い理由」 「え、何それ。お腹が痛いから?」 「お、いいねそれ」 「いいの、それ」 「たしかにお腹が痛い気がしてきた」 「だめじゃんそれ! うーん、そしたら、地面の感触を確かめて歩...
「プレゼント、見つかった?」 「わぁっ、ゆきこ先輩近いっす!」 のけぞるぼくを見て、彼女はケラケラと笑う。 細い手首にはシュシュ、ネイルは水色とピンク。 ゆきこ先輩は今日もギャルい。 そしてめっちゃいい匂いがする。 シャ...
染まった気でいた。 色はもう確定していて、動かすことはできない。 東京のビル群を眺めながら、あたしはペットボトルの水のラベルを剥がす。 なんて透明なのだろう。 16歳、あたしは何も知らなかった。 26歳、きっと変...
森の中にも日の光が届くことに、驚く 少しだけ、少しだけ。 木漏れ日は、届きそうで、ふと伸ばしたくなる手を静かに引っ込めた。 わたし、馬鹿みたい。 在りたい姿がある。 曲げられない気持ちを、曲げないための理由づくり...
太陽はまだ、沈みそうにない。 炎の真ん中の、一番眩しいところ、みたいな黄色が砂浜を照らしている。 海の音がぽわぁんと頭の中で響いては、暗闇に飲み込まれたみたいにすんって消える。 まるで私みたい。 そう、ひとりごち...
「人生って、別に生きる意味ないじゃないですか」 「生きる意味、か」 「はい。だからたまに分からなくなるんです。何をすればいいのか、どれが正解なのか、って」 「せいかい」 「土井さんが言葉を大事にする方だって、ゆんちゃんか...
1 え、ここどこ ってまなかが思ってポストの陰に隠れたのは、隣の家から出てきた幼馴染の顔が、どう見ても昨日とまるきり変わって、老けていたから。 いや、あいつだよね? だってあの家から出てきたし と心の中で呟きつつ、彼に兄...
私は笑いながら、つまんね、と思った。手首の内側に巻かれた小さな腕時計へと目をやる。のろのろと動き続ける秒針が一周するのを、私は悟られないように、前髪で顔を隠しながら見ていた。 早く帰りたかった。居酒屋特有の喧噪も、黄色...
友だちと錦糸町で飲んでいて、時刻は0時を回ろうとしていた。 「田中みな実って、なんであんな女性人気が高いんだろう?」「努力しているところが、じぶんでも出来るかもって思わせてくれるからじゃない?」店員さんが早く帰りたそうな...
時間がない、と言うことが、ただの言い訳だということは、誰よりも何よりもいんちょーにはわかっていた。 そんなの言い訳だ。 自分が本当に成し遂げたいことがあるなら、時間なんていくらだって作れる。 いくら高校生で、バイトをして...