女子高生が未来に行く物語1/3

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え、ここどこ

ってまなかが思ってポストの陰に隠れたのは、隣の家から出てきた幼馴染の顔が、どう見ても昨日とまるきり変わって、老けていたから。

いや、あいつだよね? だってあの家から出てきたし

と心の中で呟きつつ、彼に兄がいるという話も20代くらいの叔父がいるという話もきかないよな、と頭の中に検索をかける。

「あー、死にたい」

と死んだ魚の目をして、ぼりぼりヒゲを生やして、彼は玄関前に置いてあるミカン箱くらいの大きさの段ボール箱を片手で持って、家の中へと戻る。

手でかっ。

いや、そうじゃなくて。

あいつは一気に老けてしまったのだろうか、とまなかは思った。

それとも、私がタイムスリップをしてしまったのだろうか。

いやそんなバカな。

まなかは夏休みにやっていた金曜ロードショーで時かけを観てしまったがために、非現実的な想像をしてしまっていた。

とりあえず、自分の家の中に入ろう。

そう思って合鍵で扉を開けたところで、まなかは言葉を失った。

 

「いやだから、あなたは過去から未来にやってきた私なの」

「ごめん、意味わかんない」

まなかの部屋だけど少しだけ違う(置いてる本とか、インテリアとか)その場所で、まなかの顔だけど少し違う(大人っぽいというか胸がでかいというか)その人が、なんか意味のわからないことを言っている。

「ほら、時かけとか、未来のミライとか」

「みらいのみらいって何?」

「あやば、それ私が高3のときか」

「え、再来年やるの? 何それ細田守監督?」

「うん。それ映画館で観た時は微妙だなーって感じだったんだけど、20歳になってもっかい観たら面白かったよー。甥っ子が生まれたからかな。__って、そうじゃなくって!」

「なんか自分のノリツッコミみるのって結構しんどいね」

タンスの一番下のお菓子入れに入っていたポテチをあけながら、まなかは目の前の自分を見る。

「……とにかく、ここは未来だよ。私にはあるミッションがあるらしくて、それを達成するまでは帰れないんだってー」

それにしても巨乳だなー。しかもなんか大人っぽくなって可愛くなった気がする。未来のまなかは、自分の外見が好きなのだろうか、それとも嫌いなのだろうか。

きっと面倒な性格をしているから、色々とこじらせている気がする。

そうまなかは思った。

「今って大きさいくつ? 私ってのは、”わたし”ってこと? 誰からのミッション?」

「Fカップだよ。うん、そう。……わかんない」

「なんで未来の私が曖昧なの? タイムパトロールに捕まるとかそういうことじゃなさそうだけど」

「それってドラえもんじゃん。なんかね、私は体験してないから」

「は? ここって本当に未来なの? タイムパラドックスで大変なことになってない」

「大丈夫。だから、もし質問があるのなら、本当にききたいことをきいて」

自信たっぷりに、彼女はそう言い切った。

その目には茶色のカラコンが入っている。

今のまなかなら、絶対につけないカラコン。

私が大丈夫と言っているのだから、大丈夫なのだろう。と、まなかは思う。

他にも疑問点はたくさんあったし、まなかがまなかにききたいことは(くだらないことから真剣な悩みまで)星の数ほどあったけれど、本当の質問は一つだけにしておく。

一つだけにしたら、なんだか大切にできる気がして。

まなかはゆっくりと深呼吸をしながら、目を閉じる。

5年後の自分に会えた。

これが夢だとしても、忘れるのだとしても、妄想でも創作でも、なんでもいい。

20歳になったまなかに、今のまなかがききたいこと。

「あ、そうだ。このセーラー服に着替えて」

「あ、うん」

なんで?

という疑問が浮かんだけれど、質問は一つだけにするって自分の心に決めてしまったから、まなかは素直に着ることにした。

着たことのないセーラー服。

なんで未来の彼女は持っているのだろう。

……というかなんで着替えさせられているんだろう。

「おー、いいね。やっぱり私ってこういう可愛いのも似合うね」

「ありがと、自分に褒められてても悪い気はしないね」

セーラー服のネクタイを結んでもらいながら、まなかは彼女と目を合わせた。

あ、私ってこんな綺麗に笑えるんだ、って思うほどの、自信に溢れたというか、頼りがいのありそうな、いい笑顔をしてる未来のまなか。

「あった? ほんとの質問」

ききたいことは一つしかなかった。

「私はさ。私を好きでいられてる?」

にっこりと、笑うまなか。

その笑顔に、すくわれる。

世界のことよりもよっぽど、まなかはまなかのことを知りたかった。

「大好きだよ、今の私も、過去の私(あなた)も。だから大きく胸張って!」

はははと笑う彼女がまなかの腕を優しく叩くと、胸が大きく揺れる。

「ありがとう。未来の私」

窓からは、夏の終わりみたいな匂いがする。

潮と、スイカの皮と、花火の火薬の残り香。

そんな匂い。

「泣いてないよ、泣いてない」

ほんの少しだけ鼻声のまなかを遮るように、彼女はぎゅっと、抱きしめてくれる。

その体温が、未来永劫もう戻ってこないことを知っていながら、まなかはもう少しだけ、このままでいたいと願った。

 

 

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