染まった気でいた。
色はもう確定していて、動かすことはできない。
東京のビル群を眺めながら、あたしはペットボトルの水のラベルを剥がす。
なんて透明なのだろう。
16歳、あたしは何も知らなかった。
26歳、きっと変わらず知らないことだらけ。
自由になりたかった。
誰よりも自由に。
その言葉が枷となって、不自由になってしまうくらいには、どうしようもなく焦がれていた。
この無機質な街並みが嫌いになれない。
朝の光を浴びて、ギラギラと輝き出す建物たち。
太陽と調和することなく、自分は自分、って言ってるみたいに、真っ向から光も空の形も反射して、己の身を守っているんだ。
都会のビル群は、警戒心の強い野良猫みたい。
ゆっくりとした、朝の気配を感じる。
休みの日特有の、街の静けさが可笑しくて、あたしは肩を震わせて、少しだけ笑った。
あたしは何者でもない。
今までも、そしてきっとこれからも。
染まりきっていると思っていた。
でも本当は、反射して空の色を映していただけで、中身はガラス製か、もしくは水。
つまり、透明、ってこと。
あたしは何色になる必要もないんだ。
お水を飲みながら、そんなことを思う。
水にだって味があるって知ったのは、実感したのは、最近なのかもしれない。
水滴がコンクリートの地面に落ちた。
それはすぐに乾いて、消えてった。
建物は依然として、ギラギラしていて、その光は眩しいと同時に、どこか楽しげだった。
都会の朝の空気は、悪くない。
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