みやこは、みにくいモノが、この上なく好きだった。
だから、三日月も、曇り空も、男の子も、恋の感情も、とてもとても好き。
「みとさん、好きです」
「ぼくは好きじゃあないなあ」
みとさんは、同じ大学の一つ上の先輩。
よく怒り、よく笑い、ウソとホントがとても上手な人だと、みやこは知っている。
「みとさんって、何考えてるんですか。その笑顔、とっても怖いのですが」
「何考えてるのか、自分でもわからないよ。はーやだやだ」
二人で歩く、この暗くて静かな道が、永遠には続いていないことを、みやこはたまに忘れそうになる。
「みややは、無責任だね」
「みややって何ですか、うざいです」
「ごめん、みやちゃん」
みやこでいいのに、と思ったけれど、言うのはためらわれた。
「無責任って何ですか」
「その好きって、どんな好きなの? もっと他の人の気持ち考えなよ」
言葉だけをとると怒っているようにも思えたけれど、なんだかみとさんの口調は優しくて、みやこは不思議だなあと思った。
街灯が、白く光っている。
10月の夜は、思ったよりも肌寒くて、抱きしめてくれないかなあとみやこは思う。
だれでもなく、みとさんに抱きしめてほしいなあと、そう思う。
「みとさん、うざいです」
「みやちゃんもね」
「今、何考えているんですか」
みとさんの言葉は、いつだって適当で、そこに気持ちがこもっていないように感じられた。
立ち止まる。
三歩で渡りきってしまえるような小さな横断歩道。そこの信号は赤だったけれど、車は通りそうにもない。
みやこは腕をめいっぱい伸ばして、みとさんの頭に触れた。
髪の毛を手でつかんで、くしゃくしゃにする。
「なにしてるの」
みとさんは眠そうな顔で赤信号を見ている。
「さわってるの」
触れたくてたまらなかった。なんでかは、全然わからない。
「みとさん」
「ん?」
「泣いてるの?」
「泣いてないよ」
桜の花びらみたいに、ぽろぽろと落ちる涙。
みやこはそれをみて、きれいだなあと思った。
とてもとてもきれいで、みとさんにはふさわしくない。
けれど、泣くという行為はすごくすごくみにくくて。
ぼやけてきて、悲しくて、何もみえない。
だからやっぱり、好きだなあと思って、みやこは目を閉じた。
雫はぽろっとこぼれて、唇を少し、湿らせた。
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