泣きたくなったから夜中にドーナツ食う物語

他人に勝手に期待して、勝手に失望する。

20歳になった今もその過ちを繰り返している。

京子自身がもう”それ”に飽き飽きとしていることを、まなかは親友として、痛いほど理解していた。

いきなりのライン電話、午前2時、踏切も望遠鏡もない。

京子は絶対、彼女の感情を吐き出したいだけ。

だからまなかは口を挟まなかった。

お互いがお互いに、一人では乗り越えられない夜をやり過ごすために話相手を欲している。

きっと京子なら、きっとまなかなら、侮蔑せずにこの薄汚れた感情を受け止めてくれる、……だなんてもう思えなくなってしまっただろうけれど、お互いが理解のできないところが増えすぎてしまったけれど、それでもなお、まなかと京子が親友であることに変わりなかった。

お互いに、代わりはいなかった。

「私さ、異性の友達が欲しいだけだったのに」

「そっか」

「まなかはさ、なんであんなところでバイトしてんの? カフェで一緒に働こうよ」

「んー、怖いもの見たさ、だったのかな」

「男の人、怖くない? この前友達にキス迫られたとき、すっごく怖かった。……まなかは泣きたくなったら、どうしてる?」

「ウマーベラス聴くよ」

「……なんだっけそれ。たしか、サンドイッチマンの? サンドウィッチマンさんの?」

「なんで言い直したし。そう、それそれ。カロリーゼロ理論きいて……」

「うん」

「ドーナツ食べる。カロリーゼロだから。あの曲歌うとゼロカロリーらしい」

ははっ、と京子は涙声で笑う。

鼻をかむ音と、すする音。

「ちょっと待って、ヤングドーナツあるんだけど」

「え、やば。京子、それ食べたら今の時間帯何食べてもカロリーゼロだよ、フィーバータイムだよ」

「バクバク食べるわ」

電話越しに、京子がたぶんヤングドーナツの封を開ける音がした。

まなかにとって、男性は、可哀想な存在。

だから彼らを怖いと思ったことは、正直一度もなかった。

お店に来る彼らはみんな普通の人で、普通に変な人たち。

あー、たぶん男の人も愛されたいんだろうなぁとか思いながら。

まなかは言いようのない感情に包まれながら、電話越しの京子と一緒に、ゼロカロリーのドーナツをバクバクと食べた。

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