「姉ちゃんって、小学生とか中学生の頃ってどんな感じだったんですか?」
とか、他愛もない話をしていた。
朝6時の公園で、気怠げに葉巻を吸う二人の先輩は、葉巻よりも小さい子供とか、読書とかが似合いそうな朴訥(ぼくとつ)な感じ。
そもそも僕にとっては、初対面の二人だった。
姉ちゃん夫婦と飲んでいた地元の居酒屋で、偶然声をかけてきた、姉ちゃんの同級生。
彼らは僕のことも知っていたようで、トイレの順番待ちをしている最中、”彼”が僕に話しかけてきたのだけれど、まさかそのまま一緒に飲むことになるとは思わなかった。
そして今にいたる。
もうエモさのかけらもなくなった朝がたの公園で、ぼくらはお酒を飲むわけでもなく、ぼぅっと白んだ空をみていた。
抜けきれないアルコールと、気の抜けた身体。
嘘っぽい空の明るさと、頭に直接響いてくる電車の音。
ぼくさぁ
一瞬躊躇うように、息をゆっくりと吐き出す”彼”。
葉巻の煙。
それよりも気になったのは、タバコともまた違う、燻したような、大人の焦燥感とか憧れとか後悔を全部搾って詰めたみたいな、濃い、葉巻の薫り。
あー、この人が何を言うのか、僕にはわかってしまった。
居酒屋からの出来事から今この瞬間までのことが一瞬で頭の中を巡って、僕はなぜだか、少しだけ泣きそうになる。
きっと、この後にかける言葉なんていらない。
言っても仕方のない言葉だって、本人が一番わかってる。
でもこの人は、言わずにはいられないんだ。
彼が本当に伝えたかった相手には、もう言うことはできないから。
姉ちゃんは結婚してしまって、今はとても幸せそうだから。
長年行き場を失っていた大切な言葉は、かけらもエモくないこの朝に、きっともっともふさわしい。
「君のお姉さんが、ずっと好きだったんだよね」
言葉とともに吐き出した薄紫色の煙は、ゆっくりと空気に馴染んで消えていった。
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