おばあとおじいが自転車二人乗りする物語

 

「あなた、どこいくんですか」

「暇だし、ちょっと出かけようと思ったんだが、……くるか?」

「外は涼しそうですし、いいかもしれませんね。お洗濯ものたたんじゃうので、少し待ってください」

「おう」

おじいは履きかけていたサンダルを脱ぐと、ポリポリと頭をかいた。

晴れだからだろうか、なんかおばあは嬉しそうに見える。

せっかくの休日。

仕事やゴルフ漬けで、休みをおばあとゆっくり過ごすのは久しぶりだった。

もうそろそろ引退して若い者たちに、とは考えているが、やはり気になってしまって、おじいはほぼ毎日会社にいっていた。

「井の頭公園でもいくかぁ。自転車で」

「自転車? 一台しかないじゃないですか」

「ゆいさんはおれの後ろに乗ればいいよ」

「えー、なんですかそれ」

そう言っておばあは笑う。

 

 

「本気だったんですね……」

「お、うん」

おばあの前かごタイプのシルバーの電動自転車は、去年買い替えたばかりだ。

荷台にタオルを敷いて、おじいが指さす。

「乗れるか?」

「むしろあなた、漕げるんですか?」

「愚問だな。この電動自転車は我が社の誇る最新のやつだぞ」

「何言ってるんですかもう、うちは照明の会社でしょう」

「ライトはうちのだ」

「はいはい」

 おばあは麦わら帽子を被っていた。

 彼女が学生だった頃から持っているというその帽子は、年季は入っていたが丁寧にととのっている。

「相変わらず、物持ちがいいな。でも言ってくれれば新しいのを買ってやるのに」

「結構です、これがいいんです」

「そうか」

「はい」

おばあはゆっくりと目尻に皺を寄せて笑った。

何度もみてきたその笑顔。

飽きることなんて、一回もない。

ちょこん、とおばあは荷台へと横向きに座る。

おじいは前を向いて、自転車のハンドルを握って、電動アシストの電源を入れた。

「まあ、長いこと共にいると愛着がわきますから。ほら、こことかちょっとはげてるんですけど、可愛いんです」

「ほぅ、そんなものなのか」

カラカラ、と自転車を漕いで、進みだす。

くすくすとささやかに笑うおばあの笑い声をききながら、おじいは秋口の晴れた空をみていた。

 

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